Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

IoT特許の差止請求制限の議論

自動車業界の懸念とドイツの訴訟の行方

2020年7月6日の日経に、IoT特許と差止請求制限という話が出ていました。

IoT特許に訴訟リスク 自動車業界の懸念 特許庁で議論 「差し止め」制限 着地見えず :日本経済新聞

異業種間の交渉 窓口巡り綱引き :日本経済新聞

  • 特許庁の見直し議論で、自動車メーカーが差止請求の制限を主張
  • 6月16日には方向性は出ず
  • 民法解釈では、米アップルとサムスン電子知財高裁の事件で、サムスンの差止が権利乱用という判断
  • 「公正、合理的かつ非差別的に条件」で自社の標準化必須特許をライセンスするFRAND宣言違反。アップルへの差止請求は、権利乱用
  • しかし、民法だよりでは、予見可能性に欠けるので、特許法に明文化を求める産業界の声
  • コネクテッドカーで、差止を制限したい自動車メーカーと、差止制限は日本の特許権を弱めるという意見の対立
  • 同じ委員会では、損害倍書金額を引き上げる議論。日本が何を目指しているかメッセージが不明確
  • IoTでは、通信関連の特許権者と自動車メーカーに、クロスライセンスが成立せず、自動車メーカーが高い利用料となる
  • 完成品(自動車)メーカーは、部品メーカーの特許利用契約でカバーと主張
  • 通信の企業は、自動車メーカーとの契約を希望
  • 部品メーカーではなく、完成品メーカー(自動車)としか契約を結ばないのは、FRAND宣言違反という主張
  • ノキアダイムラーの争いがドイツであり、欧州司法裁判所の予備的判決が出る予定で、注目される(契約違反や独禁法違反の可能性)

コメント

記事を読む限り、欧州司法裁判の判断待ちという感じです。知財分野は、地域差や内容差が少ないので、欧州の判断であっても、日本の判断に影響するという感じですね。

 

自動車メーカーと、通信の企業が対立していて、途中に入る電機関係の企業が、どうしたものかと困っている、という図式でしょうか。

 

通信の特許は、クアルコムやファーウェイが強く、一方、日本では自動車は、最後に残された強い産業分野というように考えると、政策的には自動車メーカーに都合の良いように政策を立てようという気にもなります。自動車までやられてしまうと、電機が崩壊した日本では何も残らないという気がします。

 

しかし、特許は、差止請求があるから強いのであって、差止請求を制限するという議論は特許を弱くするものであり、あまり特許の人から出る議論ではない感じはします。

 

日経の編集委員会が言っていますが、同じ委員会で、特許の損害倍書金額の引き上げと差止請求の制限を同時に議論しているのでは、頭の整理がつかないなという気はします。

 

昔、著作権の議論で、北川善太郎先生のコピーマートという考え方がありました。良くは理解できていませんが、もしかすると自動車メーカーの主張に近いのかもしれません。

FRAND条項の契約違反といっても、そもそも、この宣言をしない特許には意味がないように思いますし、自動車メーカーも対価を支払うのが嫌とは言っていないように思います。

何か良い解決策はないものかと思いました。

 

とりあえずは、ドイツの争いについての欧州司法裁判所の動向に注目というところでしょうか。