もう少し考えてみる
2020年12月18日の記事に書いた、アサインバックの有効性をもう少し考えてみたいと思います。
パテント誌 2020年12月号の山口先生の論考で、アサインバックで得た商標権には無効の可能性があるというところからです。
私の上記のブログ記事では、無効になる可能性もあるので、重要なハウスマークではアサインバックを避けるという権利者側の対応と、早期に同意書制度を創設することが望まれるという話を記載しました。
そもそもの、アサインバックで得た商標権の有効性の論点ですが、次のような話です。
- 後願出願人が出願したときは、自己の業務の商品・役務に使用する意思がある
- 先願登録権利者には、後願商標の使用の意思はなかった
- 例えば、審査で引用商標とされた後願出願人が先願登録権利者に、アサインバックを要請した
- 要請の内容としては、後願出願の先願登録権利者への譲渡と後願出願が権利化されたのちの再譲渡。通常、名義貸し代としてお金が動く
- 先願登録権利者は、譲渡契約や譲渡を受けた時点で、はじめて使用意思が発生するが、その使用意思は、再譲渡時にはなくなるという構成
- しかし、その構成がテクニカル過ぎる。本当は、はじめから終わりまで一度も使用意思がないのではないか?
- そうなると、無効理由があるのではないか?
1996年当時の議論を思い出すと、
- 使用の意思は何時必要か?すなわち、出願時に使用の意思は不要で、査定審決時にあれば良いのではないか。
- 使用の意思は商標登録出願時に発生しており、それは商標登録出願の譲渡時に商標登録出願により生じた権利の譲渡と一体になり、先願登録権利者に譲渡されているのではないか?そうなると、もともとは使用の意思がなかった先願登録権利者は後願出願人の使用の意思を含めて出願の譲渡を受けたことになる。
という議論だったと思います。
1.や2.が論点であり、
- 使用の意思は何時発生し、
- それは出願と共に譲渡されるものなのか、出願と一緒には譲渡はされないものなのか、
- 使用意思の判断時点は、出願時か、査定審決時か、出願時~査定審決時まで連続する必要があるのか、
条文の文理解釈では、
- 使用の意思は査定審決時にその有無を判断
という点ぐらいしか分かりません。本当は出願という意思表示に基礎をおく登録主義ですので、出願時が大切そうです。この辺りは突き詰める必要があります。
完全な譲渡なら、出願時に発生した使用の意思が、出願とともに移転すると考えるのが素直ですし、完全な譲渡の場合は、どこかのタイミングで、譲受人にも使用の意思が発生しているので、問題は無さそうです。
再譲渡特約付きの商標権の譲渡で、本当に、査定審決時に、使用の意思があると言えるかどうかがポイントです。
使用の意思は主体的な用件ですから、意思の移転などないという考えもあり得ます。アサインバックの契約時に、使用意思が発生し、権利の返却譲渡時に消滅するという考えもあり得ます。
昭和34年法は使用許諾を認めているので、初めから自ら使用せず、他人に使用許諾をする意思でも(何らかの商標のコントロールはするとして)、使用の意思ありと言える。ここから考えると、あまり厳格に使用意思を問うべきではないのではないか、というような意見も出てきて、当事者のやりたいようにさせるべきで、政策的には、無効とまではすべきではないのではないかという話になります。
使用の意思は後願出願人がもっており、それは後願出願時に商標登録出願により生じた権利にの一部となっている。先願登録権利者はその使用意思を含めて引き継いでいるので、査定審決時には使用意思がある。登録後の譲渡は財産権の処分として可能である。
というような考え方で賛成したように思います。なお、この考え方ては、アサインバックの契約書に、この使用の意思の移転条項がないと、原則通り無効になっても仕方ないことになります。
考え方はいろいろできますが、客観的に見ると、先願登録権者は使用意思は無いと考えるのが素直ではあります。
前述しましたが、同意書制度が入るまでの過渡的形態としてのアサインバックが、これだけ続いてしまうということを予想していませんでした。
世界のだれもが簡単には理解できないアサインバックの運用は止め、早期に同意書制度を導入するようにしていくべきと思います。
ちなに、同意書制度は、権利範囲にはいらないことの確認です。そのため、無償が原則です。ここが有償が原則のライセンスとの違いです。
重要な違いなので、ここは整理が必要と思います。