放棄、一時放棄?
2021年5月5日の日経で、コロナウイルスへの対応のため、ワクチンの特許権の放棄が検討されているという記事がありました。
ワクチン特許、米政府「放棄も」: 日本経済新聞 (nikkei.com)
バイデン政権のUSTRのタイ代表は、バイデン政権は一時放棄を支持すると声明を出したようです。
新型コロナ: 米、ワクチン特許放棄を支持 供給増へ途上国が要請: 日本経済新聞 (nikkei.com)
5月5日の記事では、国際製薬団体連合会(IFPMA)の話として、特許権を放棄しても生産量は増えないという声を紹介しています。
問題は生産能力や原料の不足であり、特許ではないという主張です。熟練技術者、設備が必要ということです。
大手製薬会社は、特許の放棄に強く反発しているとあり、製薬会社は中国やロシアに技術が渡るリスクがあると米当局に警告しているとあります。
それでも、バイデン政権は、ワクチン外交をする中国、ロシアへの対抗上、また、インドや南アフリカや途上国からの要請に基づき、一時的に、TRIPS協定の適用除外に応じたことになります。
これまでのWTOの整理では、ライセンス契約で生産可能な拠点を増やし、契約や価格設定の透明性を高めるというものでしたので、これに比べると、バイデン政権は、一歩踏み出した感じです。
これから、WTOの場での協議になるようですが、交渉には時間がかかるとあります。
コメント
アメリカは、特許の放棄なんてしないだろうと思っていたら、バイデン政権はするんですね。
「コロナのパンデミック(世界的な大流行)という特別な状況では特別な政策が必要だ」
というタイ代表の話です。
しかし、コロナ禍になり1年半です。まだ、COVID-19の特許は成立もしてないと思います。そうなると今議論しているのは、既存の基本特許、出願中のもの今回のワクチンの特許、今回のワクチンの製法、そしてノウハウも含めて、新型コロナに関する特許・ノウハウ一式ということになります。
WTOでは、強制実施権の延長の議論をしていたと思うのですが、技術移転、生産拡大の交渉を一挙に前に進めるためには、特許権の制限に踏み込んだ感じです。
何れにしても、アメリカが特許の制限をするのは異例です。
エイズの時の強制実施権の話もあるようですが、発明者証制度を思いだしました。
旧ソ連では特許制度に対抗するものとして、発明者証の制度(1990年に廃止)があり、発明者は顕彰され、技術は公開されるが、発明者や企業が独占排他権を持つものではなく、国家が実施権を持ち、発明者は報償をうけるという制度でした。
発明者が企業になっているだけで、今回の整理に似ています。
特許制度がなくても、コンピュータ産業は隆盛し、電機でも本当に必要かは議論があるのですが、唯一、薬や化学では特許制度は有効という議論があります。
今回は、この薬ですが、特許の将来にどう影響するのかと思って見ています。