Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

音楽教室の著作権料

日経の分析

2020年3月22日の日経に、音楽教室著作権使用料についての東京地裁判決とその控訴に至った背景などに関する記事がありました。

(電子版 Selection)「教師のお手本」に著作権料 音楽教室の味方は世論 :日本経済新聞

新聞記者による判例評釈のような感じです。論点が列挙されています。

  • 東京地裁判決は従来の判例に沿ったもの
  • 著作権法では、権利者は、公衆に聞かせることを目的として演奏する権利を専有する
  • 論点1:演奏主体は音楽教師であって音楽教室ではない。これについては、1988年の最高裁判決(カラオケ法理:演奏を支配・管理し、営業上の利益を得ている店が、侵害の主体)がある
  • 論点2:公衆とは。2004年の名古屋高裁のダンス教室の音楽演奏の判決がある。教室に入る時点では誰しも「不特定」で「公衆」にあたる
  • 論点3:練習や指導でも「聞かせるための演奏」か。東京地裁著作権法の文言にない制限を付加することになるとして今回、聞かせるための演奏とした
  • 法律専門家は、JASRAC有利を予想。法解釈としては、東京地裁の判断は一貫性があるが、不満の声
  • 理由は、「カラオケ法理」の拡大解釈への懸念と、著作権法の「文化の発展に寄与する」という趣旨に反するという疑問
  • 社会一般の感覚とは溝。音楽教室は、世論を味方につけ、法廷闘争を続ける
  • 音楽教室とカラオケとの違いをどう説明するか。説得力ある論拠が必要

コメント

論点3の「練習」や「指導」が、人に「聞かせるための演奏」かという部分ですが、「細切れに弾いており、音楽としての官能を享受できない演奏には、著作権の権利は及ばない」という主張だったようです。

この論点3は、確かにまだ地裁判決が出ただけですので、確定はしていません。現在の原告の主張を超える主張が必要と記者は言っていますが、簡単ではなさそうです。

 

さて、貴社の署名入り記事ですが、判例評釈のような記事です。新聞記者の法解釈の水準は、相当高いんだなと思いました。

知財の仕事を始めた30年前の新聞にある知財の記事は、法律的には適当な感じでしたが、知財を専門に扱う記者も増え、専門性が増しているようです。

そして、それを受け入れる一般読者がいるということだろうと思います。

 

昔から憲法に関する裁判、公害事件や労働裁判などは、社会的なインパクトも大きいので、新聞記事であっても法的に詳細な説明がありました。最近は知財問題が社会の関心の大きな位置を占めているということなんだと思います。

 

本件は、今後、世論がどう変化するのか、見ていきたいなと思います。あまり世間の認識とかけ離れた判決は、苦しいように思います。

 

別の話になりますが、昨日、著作権法でも、有名な加戸守行氏の死去というニュースがありました。 

加戸守行氏が死去 元愛媛県知事 :日本経済新聞

 

 

nishiny.hatenablog.com

 

 

アサヒグループHDとシャープ

食品寄付とマスク生産

2020年3月19日の日経でアサヒグループホールディングスが、1.5億円分の食品を寄付したという小さな記事がありました。

アサヒ、1.5億円分の食品を寄付 :日本経済新聞

  • 新型コロナウイルスの感染拡大で子供の生活環境に影響
  • 全国の子供食堂に、総額1.5億円の飲食料品を寄付
  • カルピス19万本
  • 即席みそ汁。スープ約1000万食

また、2020年3月24日の日経電子版に、シャープがマスクを生産開始したという記事がありました。

シャープ、マスク生産開始 当初は1日15万枚 :日本経済新聞

  • 液晶パネル工場でマスク生産を開始

  • 経済産業省補助金を活用し設備導入

  • 当初は1日15万枚。1日50万枚まで引き上げ

  • 鴻海精密工業の技術協力

  • 必要度の高いところに納入。シャープの電子商取引サイトでの販売も計画

  • 政府の緊急要請に応じて参入を決定

  • 既存のマスクメーカーも政府の補助などを受けて増産

コメント

両方とも短い記事です。

シャープの記事はYahoo!Japanのニュースにもなっていたのでメジャーなニュースだと思いますが、アサヒグループHDの記事は見落としてしまいそうな記事です。

 

アサヒグループホールディングスは、本業の飲食料品の製造販売を継続するという本業を通じた社会への貢献ができますし、それに加えて子供食堂への寄付をしており、立派な企業だなと思いました。

シャープは、技術力や生産能力のある会社ですが、そんな会社が作ったマスクなら、性能も間違いなさそうで安心ですし、この時期に社会課題の解決に大手電気メーカーのシャープが乗り出してくれるという意味で、社会へのインパクトがあります。

 

双方とも、CSRとしても、リスクマネジメントとしても、ブランドマネジメントとしても非常に参考になる例だと思いました。

 

海外のラグジュアリーブランドが、消毒液を生産するということがニュースになっていました。 

日本でもこれに近いことが始まっているようです。

nishiny.hatenablog.com

 

このアサヒグループホールディングスや、シャープの活動は、人々の記憶に残るのではないかと思います。

 

中国が先行して新型コロナウイルス感染症で大変なことになっているときは対岸の火事てみあり、中国の代理人の先生に何もしていませんでした。

しかし、先週、今週と中国から事務所にマスクが送られてきて、赤面しています。

中国の先生からのメッセージに次の文書がありました。

「投我以桃、報之以李」

読み方は、「我に投ずるに桃を以ってすれば、これに報ゆるに李(すもも)を以ってす」となりです。

意味は、桃をもらったら李をもってお返しをするということで、受けた恩義には必ずお返しをするという意味だそうです。

 

テレワークをすると、ルーチンだけが業務になり、食堂で別の部署の担当者同士が偶然会って、アイディアが生まれるというようなことが少ないのではないかと思います。

ネットでも同じような相談は可能なはずですので、テレワークをしている方は、普段よりもアンテナを広げてみてはどうかと思います。

読みました

アンパンマンの遺書

近くの有隣堂(神奈川県でメジャーな本屋)で見つけた「アンパンの遺書」(やなせたかし岩波現代文庫版)を読みました。

 

アンパンマンの遺書 (岩波現代文庫)

アンパンマンの遺書 (岩波現代文庫)

 

 やなせたかしさんが、アンパンマンの著者であることや、人生の後半になってからアンパンマンで大成功を収められたことは知っていましたが、その人となりや人生についてはあまり深く知りませんでした。

 

この本は自叙伝で、2013年に亡くなる8年前の1995年に発行されたものの文庫版です。

 

アンパンの他にも、「手のひらを太陽に」の作詞者としても知られているようですし、「やさしいライオン」「ミスター・ボオ」などの漫画、虫プロの「千夜一夜物語」のキャラクター設定などをされているようです。

基本は漫画家ですが、グラフィックデザイナーの仕事もしておられ、三越の包装紙のデザイン(これはデザイン依頼者側の担当者として関与)などもやっているようですし、演劇の美術監督とか、「詩とメルヘン」の編集長とか、マルチな才能があった方であるということが良く分かりました。

戦前の東京田辺製薬や戦後の三越の宣伝部での話も面白いなと思いました。イメージとして戦前は戦後とは違う世界というイメージがありますが、やなせたかしさんの目を通して戦前を見ると、戦後とつながっている、さほどは変わらない世界に見えました。

 

戦前、戦中、戦後、アンパンマンがヒットするまで、ヒットしてからと、話は続くのですが、本人はいたって淡々とした記述をしています。しかし、こちらから見たら波乱万だなと思う人生です。

 

アンパンマンのヒットまでが長いのですが、1988年のアンパンマンのアニメ化のときは、1919年生まれですので69歳です。亡くなられたのが2013年(94歳)ですので、晩年の25年はアンパンマンの作者として超多忙な時期を過ごされています。

 

ビッグヒットは遅いのですが、もしもそれがなくても、グラフィックデザイナーや漫画家としても、この本に書いてあるような仕事が出来ているということは、凄いことなのですが、やはりアンパンマンは別格です。

 

さて、面白かったのは、交友関係の幅の広さです。これは驚くほどです。

いずみ・たくは「手のひらを太陽に」の作曲家ですので特別に親しいとしても、手塚治虫永六輔宮城まり子、サンリオの社長(辻信太郎)と相当濃密な仕事をされています。

漫画家の名前は知っている人もいますし、そうでない人もいます。

そのため、この本は文化論としても読めるようになっています。

 

ラジオドラマの仕事で、増山江威子さんなどの声優とも接点があるようです。

やなせたかしさんに特別な魅力があったということだと思います。このような様々な方との接点を通じて、いろいろな知識を蓄積して、その集大成がアニメーションであり、アンパンマンなんだということが良く分かりました。

 

戦争から帰ってきてからの、奥さんとの話も非常に面白いものです。

 

来る仕事をこなしていて、最後にその集大成ができるなんて、素敵だなと思いました。

 

高知県香美市やなせたかし記念館は遠いので簡単には行けないですが、新型コロナウイルスの騒ぎが収まれば横浜のアンパンマンミュージアムに行きたいなと思っています。

商標における消費者調査

証拠能力についての考え方(決議)

AIPPI誌の2020年1月号に商標の消費者調査による証拠について、青木博通弁理士のまとめがありました。

欧州、米国、中国の消費者調査(アンケート調査)についての法令や判例をざっと外観して、日本部会の意見を記載し、2019年のAIPPIのロンドン会議での議論、決議に及ぶという内容です。

Resolution(決議)は、次のようなものです。

  • 証拠能力:商標の法的手続きにおいて証拠能力があるとすべきだが、義務付けない
  • 対象となる法的手続きの種類:行政、司法におけるあらゆる法的手続きにおいて
  • 証明される事実や状況:名声、識別力、混同など
  • 調査設計:調査目的、方法、回答者の人数・選定、質問形式、順序などの指針を定めるべき
  • 標数値:十分に証明されたという回答割合(%)は定めるべきではない
  • 調査設計への行政・司法の関与:関与すべきではない
  • 証拠としての重み・価値:ケースバイケース

 

コメント

周知著名になっていること、後発的な識別性の獲得、混同が生じていることなど、アンケート調査で測るのが一番客観的ではないかと思われます。

 

防護標章登録を取得したいという理由で、直接の競業者ではない他社から、著名であることを認める宣誓書の発行の依頼を受けたりしたことがあります。

また。混同の有無を判断するための同意書は、当事者が混同は生じていないということを回答しているという意味で、アンケートの究極の形ということもできます。

 

Wikipediaの「アンケート」の説明は以下です。

元々は対面による会話なども含めていたが、現在は調査研究の方法として、質問紙法をさす場合が多い。社会調査の手法の1つとして知られている。アンケートという語はフランス語に由来し、英語ではサーベイ(survey)またはクェスチョネア(questionnaire)という。

アンケート - Wikipedia

 

このアンケートの手法は、世論調査マーケティングで活用させているもので、統計学的な考え方がベースとなりますが、日本の商標実務では非常に低く見られているようです。

特許庁でも裁判所でも、アンケートを尊重するという話をあまり聞きません。

 

おそらく、行政や司法には、アンケートは質問票の作り方や、アンケート対象の母集団の作り方などで、誘導尋問的なことが可能であり、そのようなものに左右されたくないという気持ちがあるのだと思います。

一方、活用する企業側も、統計的な手法でのアンケートはコストがかかるので、あまり広がってほしくないというのだと思います。

 

ブランドマネジメントは法律の領域ではなく、経営学マーケティングの領域ですので、アンケートは必須なのですが、日本の法律の運用は遅れているなという気がします。

 

米国では、そもそも、異議でも訴訟でも非常にコストがかかりますので、アンケートに多少コストをかけても、それほどの負担にならないのかもしれません。

また、欧米企業の行動自体、マーケティングリサーチがベースになっているので、経験と勘の日本企業とは少し違うのだろうと思います。

その意味では、商標に消費者調査が根付くのは、企業でのマーケティングリサーチが本格的に根付いた後になるかもしれません。

 

しかし、これが根付けば、経験と勘のレベルから、一挙に科学的な判断になりますので、現在のような定型的な類似判断はなくなるかもしれません。

 

アンケートは、新しい商標の登録などでは、周知性の立証のために活用されているようですが、まだまだなように思います。

AIPPIの決議でもアンケート設計の「指針」が必要としていますが、この「指針」を作らない限りは、日本では前に進まないように思います。

 

 

 

不使用取消被請求時の提出資料

大変勉強になりました

2020年1月号の知財管理に、弁理士の大野義也先生が「商標不使用取消請求の答弁書資料の総括ーASEAN及びBRICS-」という論説を発表されています。

不使用取消請求を受けた時にどのような資料を提出すれば、使用があったと認定されて、不使用取消を回避できるかということを、ASEAN10ヵ国とBRICS5ヵ国に調査をしたというものです。

「アンケート内容」と「その結果」と「結果の総括」となっています。

 

<アンケート内容>

次の書類が使用証拠となるかどうか?

  1. 製品パンフレット又はウェブサイトの写し
  2. 通関書類の写しと製品パンフレット
  3. 発注・納品に関する一連の電子メールの写し
  4. レシート(売上表)と製品写真
  5. 現地販売店の写真(商品の陳列状態が分かるもの)
  6. 完成品に組み込まれた状態の製品(部品)の写真と完成品の販売資料
  7. 展示会の写真と(展示会の)ガイドラインの写し
  8. 販売認可申請の写し(販売がペンディングである理由の証明)
  9. 現地新聞紙面における所有権宣言の写し
  10. 現地販売店・現地需要者の陳述書

4.と5.は、不使用取消が請求される前の、証明が必要な期間中のものを事前に仕込んでおくことが前提のようです。

その他、

  • 1セットで良いか、複数年が必要か?
  • 商品単価や購入者名のマスキングは可能か?

なども質問されています。

 

<結果と結果の総括>

個々の国の細かい説明は論考をみていただくとして、総括としては、どの国でも通用するのは、

  • 3.「発注・納品の電子メール写し」、4.「レシートと製品写真」、5.「現地販売店の写真」は、全ての国で証拠資料と認められる可能性が高い
  • 2.の「通関書類の写しと製品パンフレット」は、大半の国では使用証拠になるのですが、インドネシアやブラジルでは、該当地の領域内に実際に入ったことを示すために輸入関係書類が必要であったりするようです。

 

また、追加質問については、

  • インドネシア、タイ、ブラジルでは、1セットでは足りないようです。
  • 使用証拠のマスキングは、ミャンマー以外は可能とあります。

 

コメント

論考を読む前は、国内と違って海外のカタログは期限がなかったり、英語のグローバル版しかないことも多いので、当然、インボイス船荷証券(B/L)の2が最も重要と思っていました。

しかし、そうとばかりは言えないようです。より現地での使用を証明できる証拠が望ましいようです。

また、実務上一番重要な中国では、「販売契約書」と「発票」のセットが良いそうです。ここにも、日本からの輸出が確認できるインボイスよりも、現地使用が確認できる書類が重視されていると見ることができます。

 

さて、企業で商標実務をしていたのはだいぶ前なのですが、その時の記憶では、日本の不使用取消は(日付の入った)カタログがあれば十分だと思っていました。どちらかというと、商標の同一性の方に問題があるケースが多かったように思います。

当時でも、外国商標権利は、国内権利よりもだいぶ沢山保有していたのですが、ほとんど不使用取消を受けたことがありませんでした。偶にあっても、もし権利が無くなっても商売には問題のない防衛目的の分類程度でした。これも再出願すると簡単に登録になったりして、不使用でもめたケースがほとんどありませんでした。

中南米アンデス条約加盟国など、まだ、更新に使用証拠が必要な国も多少あり、その使用証拠を集めるのに苦労した程度です。

 

しかし、特許事務所に入ってみると、中国を中心に日常的に不使用取消が頻発しています。特許事務所の提示できる選択肢として、交渉よりも不使用取消が優先される面があるのだと思いますが、それを差っ引いても、大変な状態になっているなという気がします。

英国は別として、欧州の大陸諸国では昔は重複権利なんか当たり前でしたが、今はEUTMが機能しており、異議と不使用取消は二本柱になっています。

 

世界的に商標法条約で、更新時の使用証拠の要求がNGになったため、不使用取消は商標の保護の根拠である使用を確認する手段として、一本足打法になっていますので、非常に重要です。

 

そういう意味で、大野先生の論説は有益な情報だと思いました。特に、4.5.のような現地での使用が分かる証拠を事前に集めておくという提案は納得できます。

 

特許でいう発明ノートに変わるものが、商標の使用証拠ですので、これをどうして確保するかについては、もっとプロアクティブになるべきです。

専門家である弁理士側からも企業に発言をする必要があり、このようなアンケート調査は意味があるなと思いました。

ちなみに、どの代理人を使っておられるかも、参考になりました。

 

海外子会社と移転価格税制の論説

知財管理 2019年12月号

知財管理の2019年12月号に「海外子会社との知財関連取引時の移転価格税制に関する問題の考察」という論考がありましたので読みました。知財協会の2018年度のライセンス第2委員会の第1小委員会のものです。

 

以前の会社で、子会社に対するブランドライセンス契約を担当したときに、移転価格税制のところも経理や外部税理士に教えてもらったりしたので、興味を持って読むことができました。

この論考は、特許を中心としたものであり、必ずしも商標に焦点は当てておりませんが、移転価格税制の知財パーソンにとっての考え方は同じですす、新しい動きの説明もあり、参考になりました。

全体に、難しい移転価格税制を、分かりやすくまとめているなと思います。上手に場合分けされているなと思いました。是非、論考を見てください。以下は、メモのようなものです。

 

移転価格税制:

異なる国・地域に存在する親子関係等にある会社(以下、「関連者」という。)間において行われる取引価格が、親子関係等にない独立した第三者(以下、「非関連者」という。)との間で行われる取引に比べて、高額又は定額に設定されることによって、一方の国で生じた所得が相手方の国に移転することを防ぐために、当該一方の国の税務当局が、関連者間の当該取引が非関連者との取引価格(以下、「独立企業間価格」という。)で行われたものとみなし、自国に所在する関連者に対し、それと乖離する金額を益金に参入させ、又は損金への参入を認めないことにより課税所得金額を算定し、課税する制度である。

 

国外関連者と取引を行う際、移転価格を考慮して、独立企業間取引と乖離しない価格を設定し、取引を行う必要があります。

このために、ハウスマークについてのブランドライセンスなどは、全世界一律に〇.△%のうような料率にしている企業も多いのではないかと思います。

 

この論考によると「移転価格税制と価値創造の一致」という考え方があるようです。「OECD移転価格ガイドライン 2017年版」では、法的所有権の帰属のみではなく、当該無形資産の開発、改良、維持、保護、使用(DEMPE機能)や、使用する資産引き受けるべきリスクに応じて、無形資産から生じた利益の帰属先は決まるとなっているとあります。

すなわち、法的な名義ではなく、無形資産の価値創出への貢献度合いで、利益の帰属先になるということです

 

※ ブランドを利用した資金回収を考えるときも、本当は、このDEMPE機能分析をして、事業スキームを組み立てる必要があるのですが、ブランドについては本社の役割や権限が強いということで、DEMPE機能分析でも問題なしとなっているんだろうなとも思います。

単純に名義が本社名義だからというだけではNGで、戦略決定、企画管理、予算、重要な決定、機能の質の品質管理などを、本社が機能分担していないと、本社が利益の帰属先にならないようです。

ここは、ブランドについては、本社に機能を残すべきと主張する大きな根拠になります。ややもすると、海外の現地の人の方が発言権が強くなり、すべてがバラバラになる傾向があるので、そうならないために、この移転価格の考え方は利用できます。

 

このDEMPE機能の役割分担は、単に契約書だけではなく、多国籍企業グループ間の移転価格文書(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)や稟議書などの社内文書に残すとあります。

 

次に、この論考の分かりやすい点は、想定事例を複数あげて分析している点ですが、国・地域が違えば物価や、売上、知名度、その他の取引価格が異なることも多いので、ロイヤルティ料率が異なることも考えられるが、同じ国の2つの子会社対象に料率を変えることは難しいなどとして、説明してくれている点です。

 

最後に、最近は企業再編が多いということで、譲渡について論じていますが、ハウスマークは、さすがに本社のもので、譲渡することはないと思いますので、ここはブランドではあまり関係ないかなと思って読みました。

 

ブランドについては、一律の料率というのは、分かりやすいですし、仕方ないかなという気がしますが、本当は、商品やサービスでも認知度は異なりますし、アジアでは高い認知度があるが欧州ではそれほどでもないとか、多少は価値に差はあるような気はしています。

しかし、あまりややこしく考えると説明できなくなるので、世界のブランドライセンスが生み出した現場の知恵が、一律〇.△%何だろうと思います。

 

 

ロレアルやLVMHのコロナ対策

殺菌ジェルの無償配布など

2020年3月19日のWWD JAPANで、ロレアル(L'OREAL)が新型コロナウイルスに対して、ヨーロッパにおいて水性アルコールジェルを大量配布するという記事を見ました。

ロレアルが新型コロナウイルス対策として殺菌ジェルを生産 医療機関や中小企業に提供 | WWD JAPAN.com

  • 新型コロナウイルスに対して戦う人々を讃え、応援し、感謝の意を示したい
  • 病院や介護施設、薬局に消毒ジェルを配給
  • 消毒ジェルを数百万個、ヨーロッパの食品企業に無償で提供
  • ヘアサロンや専門店などに対して、営業が再開するまで売掛け金の回収を停止
  • 影響を受けたディストリビューターに対しては支払いを早め、現金払いを可能に
  • 被害を受けた人の支援団体に約1億1800万円を寄付
  • LVMHは、コスメブランドの生産ラインで消毒ジェルの生産を発表
  • フランス国内の医療機関に水性アルコールジェルを無償で提供

LVMHが香水とコスメの生産ラインで殺菌ジェル生産へ 医療機関などに無償提供 | WWD JAPAN.com

 

コメント

さすがだな~と思いました。ブランド戦略の教科書に載るような素晴らしい事例です。顧客が困っているときに、すぐさま対策を取っており、企業の考え方や、肝の据わり方が垣間見えます。

こんなときに、このような活動ができるのは、ヨーロッパの企業は大人だなという感じがします。

 

SDGsというのか、CSRというのか、ブランド戦略というのかか、リスクマネジメンというのか、言い方は色々あると思いますが、困っているときに助けてもらったことは、後々まで好印象で続きます。

 

一体、ロレアルやLVMHの工場は、どこにあるのでしょうか?フランスなんでしょうか?あるいは、世界中にあるのでしょうか?

 

以前の会社でも震災があれば、電池や懐中電灯を無償で届けることを一番はじめにやっていました。特にニュースにもなりませんが、社員には活動内容を伝えていたと思います。

 

欧州の会社のしたたかさは、これを対外発表する点ですが、陰徳の時代でもないので、それは良いのではないかと思います。

 

1月29日の記事で、少し古い記事ですが、欧州や中国の各社が、中国の湖北省赤十字などに多額の寄付をしていたようです。

新型コロナウイルス対策に「ルイ・ヴィトン」親会社が2億円超の寄付 多くの企業が支援を表明 | WWD JAPAN.com

  • LVMH:中国赤十字基金会約2億4000万円
  • ケリング:湖北省赤十字基金に約1億1250万円
  • ロレアル:中国赤十字基金に約7500万円
  • エスティ ローダー:約3000万円
  • 資生堂:約1500万円
  • スワロフスキー:約4500万円
  • 中国のアリババ:約150億円
  • テンセント:約45億円
  • JDドットコム:手術用マスクを100万枚、消毒液や抗ウィルス剤などの医療品を6万ユニット
  • 大手カシミヤメーカーのオルドス:コートの生産工場でマスクや防護服を無料で生産
  • 新型コロナウイルス対策の支援として、現時点で合計約3000億円以上が寄付されたと試算

この時は、欧州企業にとっては、まだ対岸の火事だったのだろうと思います。日本企業は何をしているのかと思ったのですが、記事に資生堂の名前が入っていてほっとしました。

2月6日の時事に、資生堂がアジアの売上の1%を寄付するという記事があり、具体的には上海市慈善基金会に約1億5000万円を寄付とあります。

2月5日の通販通信に、ファンケルがマスクを武漢に20万円寄付という記事もありました。

 

2月中旬からは日本で大変なことになり、3月になり世界的が大変になっていますが、日本企業も在宅勤務等で社員を守ることで精一杯で、本業を通じた支援に乗り出すことが出来ていないような感じです。

 

マスクは中国に生産拠点があって、日本では増産できないようなことを聞きますが、台湾では現地生産をしているというニュースを聞きます。

除菌ジェルなども、日本でも生産できそうな気がします。日本企業も、今、本気で増産しないと海外企業とのブランド格差が開く一方のような気がします。

 

ここで、欧州のロレアルやLVMHのように踏ん張った会社だけが、次の時代に通用するブランドとして生き残ることになるんだろうなと思いました。