Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

新・商標法概説(その66)完

民事訴訟としての商標関係訴訟

差止請求訴訟、損害賠償請求訴訟、差止請求権不存在確認訴訟、先使用による使用権存在確認訴訟などがある。

 

差止請求訴訟

裁判管轄について、被告の住所地が原則であるが、不法行為地の特別裁判籍が認めらるのか判例・学説の対立がある。最高裁は、積極説となり、不法行為地でも裁判を提起できるとする。

 

差止請求と損害賠償請求が併合請求される場合は、損害賠償の義務履行地(損害賠償請求権者の住所地)にも管轄が認められる。

 

差止請求の特殊類型として予防請求権があるが、商標の普通名称に関して、登録商標について辞書に普通名称のように記載されることについては、防ぐことが必要であるが、訴えの方法はない。

 

損害賠償請求

38条1項の損害額の推定規定は、みなし規定である。

38条3項の使用料相当額の規定からは、「通常」の文言が削除された。これは正当な許諾料と同じでは不十分であるとした趣旨であり、一種の法定賠償額である。

 

保全訴訟手続

通常、保全処分は口頭弁論を経ずに保全命令が発せられる(保全処分の「密航性」)。しかし、影響の大きさから実務上は「原則的に審尋」が行われていた。

ただ、不正商品事件の商標偽造の場合に、緊急の場合とか、審尋を経たのでは仮処分の目的を達することができない場合には、口頭弁論や債務者審尋を経ずに、仮処分命令を発令することができる。

 

その他、文書提出命令の不提出の効果などの記載があります。

 

コメント

やっと、一冊を読み終わりました。

刑事や税関登録がないようです。商標権侵害、特に模倣品対策では、刑事や税関登録のことが重要な気がしますが、なぜないのかは不明です。先生のご専門の関係でしょうか?

 

証拠保全、仮処分、文書提出命令、などとなってくると、弁理士の日常業務とはだいぶ違ってくるので、やはり弁護士と共同して対応しないとしかたないかと思う領域です。

 

111日前に、小野昌延先生、三山俊司先生の新・商標法概説(第2版)を読み始めたのですが、読み応え十分の本でした。

今販売している商標法の概説書では、良い本なのではないでしょうか。

本書は最近の法改正にも言及されていますし、判例や学説の歴史も踏まえているし、諸外国の法制や条約にも配慮しているし、素晴らしい本ではないかと思います。

折に触れて、辞書的に使っていこうと思います。

 

小野先生がお亡くなりになり、第2版からは三山先生が共著者となっていますが、この本を補訂していくのは、なかなか大変な仕事だろうと思います。

法改正、判例への目配せは可能でも、本書の基本には、小野先生らしい視点や判断があるように思いますので、新しい問題が生じた場合に、果たして小野先生がご存命ならどのようにお考えになるのか、それを想像して記載するのは、なかなか難しいように思います。

 

ふわっとした記載や、話口調に近い語順もあるので、理解するには骨がおれる面もありましたが、本当に面白い本でした。

 

新・商標法概説(その65)

審決取消訴訟

拒絶査定不服審判、補正却下の決定(査定系)、

登録無効の審判、登録取消の審判(当事者系)については、

東京高裁(知的財産高等裁判所)に提訴できる(63条)。

 

査定系の訴えでは、特許庁も一方の当事者であり、特許庁との連絡の便宜のためにも、また工業所有権法上の判断の統一のためにも、東京高等裁判所知財高裁)の専属管轄としている。

 

  • 原告適格は、当事者、参加人、当該審判若しくは再審に参加申請して拒否された者に限る。
  • 被告適格は、査定系では特許庁長官であり、当事者系では当該審判等の被請求人である。
  • 出訴期間は30日で、不変期間である。
  • 審決取消訴訟の審理範囲については、対象は原審決であり、原告が判断の違法を争い取消しを求めた審決において審理判断された当該審決理由に限定され、それ以外の理由を取消理由として取り上げることはできない。なお、「リンカーン」商標事件というものがあり、訴訟段階で前の主張を補充し、新たな立証をすることを許された。
  • 裁判所は破棄変更による自判はしない。司法機関と行政機関の権限配分政策による。
  • 取消判決の効果は、判決主文が導きだされるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる。再度の審判手続において、同一の使用事実につき、この使用事実が認められるとして新たな証拠を採用し、不使用取しを不成立とした前審決を取消した前判決と別異の認定判断をすることは、先の取消判決の拘束力により許されない(壁の穴事件)。

コメント

面白いなと思ったのは、条文上は、63条にせよ、特許法178条にせよ、東京高等裁判所という名称が残っているという点です。

知財高裁といっても、東京高等裁判所の中に設置されたものに過ぎないという点があるようです。

知的財産高等裁判所設置法(平成16年6月18日公布 法律第119号) | 知的財産高等裁判所

 

それはそうと、なぜ、東京かという理由ですが、特許庁が東京にあるためだそうです。

この理屈からは、もしも、特許庁が高松に移転したら、この理屈からすると、知財高裁は高松に移転した方がBetterです。

 

実際には、そうはならないのでしょうが、アメリカや韓国を見ていると特許庁がだいぶ首都から離れているので、あり得ないことはないなと思いました。

 

ただ、そうなると法律を変える必要がありますので、この点では大変ですね。

 

先日、ドイツの案件で、意見書のあと、Appealというので、審判請求だろうと思っていたら、ドイツには審判がなく、それに該当するものは特許裁判所への提訴となっているということを聞き、驚きました。

審判制度は、ドイツからではないようです。中南米(コロンビア)なども、審判ではなく訴訟だったように思います。審判というのはどこから来た制度なんでしょうか。アメリカでしょうか?

 

 

 

新・商標法概説(その64)

代理人等の不登録登録に対する取消請求、審判手続き一般

 

代理人等の不当登録に対する取消請求)

外国商標権者の商標を、日本の輸入代理業者などが、外国商標権者の承諾を得ないで、商標登録を取得したときの取消規定である(53条の2)。

取引の円滑、需要者の利益保護、国際的な誠実な取引慣行に反するということで、パリ条約のリスボン改正条約で6条の7が採り入れられたことに対応する。

 

正当な理由があれば、取消を免れるため、正当な理由が一つの論点になっている。

また、「代理人又は代表者」とは広く、代理人、特約店、委託販売業者など広く商標権者の商品を輸入し販売するものを指すと解するか、狭く、代理権を持つものや代表者と解するかという考え方の対立がある。

 

判例では、「商標権者との間に継続的な取引により慣行が形成され、日本国内における商標権者の商品の販売体系に組み込まれるような関係にあった者も「代理人又は代表者」に該当する」とする(Chromax事件)。

しかし、商標権者との間に格別の信頼関係が必要とする判決もある(東京高判昭和58年12月22日や、アグロナチュラ事件)。

 

(審判一般ー審決の効力)

平成23年改正で、一事不再理の原則が、当事者だけになっている。

 

(審判一般ー訴訟手続の中止)

裁判所は、無効審決の結果を待たずに、請求棄却の結論を出すことも可能になっている(39条、特104条3)。

 

コメント

審決の効力、訴訟手続の中止のあたり、現実の争いでは重要なところなんだろうと思います。しかし、私の業務は、外国商標の調査や出願や中間といった特許事務所的な業務が中心で、同意書取得(共存契約)や簡単な許諾被許諾程度はありますが、日本の係争系はノータッチですので、あまり日頃気にすることはありません。

 

パリ条約の6条の7になりますが、代理人等の不当登録は、外国商標でも重要です。

外国で商標は使用している(実際に販売しているのは、ここでいう代理人)のに、日本の事業の方針か、予算などの理由で、商標出願がされないとき、現地の輸入代理店などが商標出願をしたいという気持ちは良く分かります。

 

なんとか、パリ条約6条の7を使わなくても問題ないようにできないものかもと思います。

本来は、日本企業はマドプロなどを使って、どんどんと外国出願を増やすべきなんだろうと思いますが、商標外国出願はコストがかかりすぎるのか、あまり外国出願の数は多くないなと思います。

マドプロ出願をすることは国内商標出願に比べると、大変ではありますが、もし、コストが問題なら、調査はSAEGIS程度にして、マドプロを自社で出願して、中間になったときだけ日本の弁理士経由で現地代理人を使うという方法もあります。

異議や無効で争うことより、出願することを好むのが日本企業の商標戦略の特徴ですが、外国出願については、なぜだか今一歩だなと思います。

 

先日、マドプロの啓発活動で、WIPOの方が事務所に来た時に、本当はマドプロは電子出願に対応しているし、外国では電子で出せる国が多いが、日本では紙のみという話がありました。日本のマドプロの出願数が、システムを開発するには、足りないようです。

 

現在は、特許庁の事前チェックがありますが、電子出願になるとやり方が現在とは違ってしまい、商品関係の拒絶が大量発生しそうです。

中国やインドネシアのようにリストから選択するのが分かりやすいのですが、反発がありそうです。

対策は、WIPOに日本の特許庁の国際出願室のメンバーを数名送って、調整してもらうという方法がありそうですが、やはり電子出願はマドプロ拡大の鍵になるように思いました。

 

新・商標法概説(その63)

分離移転後の一方権利者の混同行為による商標登録の取消審判

これについては、次のような説明があります。

  • 平成8年法改正により、商標権の分割移転ができるようになった(24条)
  • また、連合商標制度が廃止され、商標権の分割に伴って商標権の分離移転ができるようになった(24条の2)(※ 連合商標の分離移転禁止がなくなりました)
  • 商標権移転の結果、同一の商品も敷くわ役務についての使用をする類似の登録商標権にかかる商標権者が、不正競争の目的で、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用であって他の登録商標にかかる商標権者(専用使用権者又は通常使用権者)の業務にかかる商品又は役務と、混同を生じる行為をしたときは、何人も、その商標登録の取消審判の請求ができるとした(52条の2)
  • 不正競争の目的でとしたのは、混同は不正競争の有無に関係ない客観的な事実であるから、不正競争の目的で混同行為をしたことを取消要件としないと、名声をフリーライドされ利益を害されている側の商標権者まで「混同」を理由に取り消される不当なことになるから
  • 請求権者は、何人も
  • なお、自己の登録商標の類似商標の使用をして出所混同を起こした場合や、使用権者が混同を生する行為をした場合は、51条や53条で不使用取消審判を提起すれば足りる
  • 制裁規定であり、商標登録全部が取り消される


関連で、24条の4に「商標権の移転に係る混同防止表示請求」があります。

 

コメント

この条文、出所混同だけで、品質誤認を見ていないですね。連合使用の分離移転禁止を無くすのが趣旨なので、こうなったのでしょうが、51条、53条に比べて不足していないでしょうか。

 

この規定により、不正競争を起こした方だけが取り消されるのですが、元の商標権者も取消すべきという議論もあったように思います。

混同を発生させた原因は、元の商標権者にもありえます。

  • 相手方を見誤った、
  • 適切な監視をしなかった、
  • 適切な混同防止請求をしなかったなどです。

他人の名声を利用した方だけを取消すという構成が、この52条の2を力不足なものにしている可能性があり、それが同意書制度スタートの足を引っ張っているように思います。

 

連合商標の廃止は、単に連合関係という紐づけをしないだけのものから、類似商標の分離移転を認めるものまでありえます。単に紐づけしないだけなら、移転時に審査をして、類似しているかどうか、すなわち、譲渡可能かどうかを判断すれば良いのですが、類似商標の分離移転を認めるということは、類似商標の並存登録を認めるということになります。これは、商標法が出所混同を容認していることになります。

これは商標権の財産権的色彩を強く反映したもので、商標の収益、処分の観点ではありがたいのですが、元の商標が使用されている場合は、出所混同は必至です。2000年以降の商標権の財産的契機の重視の結果です。

 

混同防止表示だけに頼るのは、そもそもが無理があったように思います。混同防止表示は、当時、インターネットが流行り、各国の登録商標がWeb上では入り乱れ、Disclaimerぐらいしか有益な解決がなったところで、脚光を浴びていましたが、混同防止表示に過度に頼るのは危険です。

 

もし、双方の商標権者にも監視義務を負わせ、出所混同を生じたら、起こした権利だけではなく、起こされた権利も取消されるとすると、商標権の分離移転は、余程注意しないとできないことになります。

現在、類似する商標権の分離移転を認めたことが、アサインバックという日本独特の運用になっています。

この条文の「不正競争の目的で」を削除することで、アサインバックの運用はなくなり、同意書制度に進む出発的に立てます。

アサインバックという筋の悪いものが、普及するとは思いませんでした。

 

  • 同意書は、非類似と考えるから発行するもので、
  • アサインバックは、権利は類似だけれども、(自分はどうせ不使用であるし、空権だけれども権利が残るはありがたいので)行うものであり、

 

結論は、同じように、必要な権利が必要な権利者に行くものですが、どちらが筋が良いかは、明白であると思います。

 

ちなみに、不使用なのになんだかんだと主張する権利者には、不使用取消で厳しく糾問するしかありませんし、もっと、不使用取消は活用すべきです。

 

 

 

新・商標法概説(その62)

使用権者の不正使用取消審判

本書には、条文に従い、53条の説明の前に、52条の2の「分離移転後の一方当事者の混同行為による商標登録の取消審判」がありますが、51条の不正使用取消審判と、53条の使用権者の不正使用取消審判は、セットの方が素直なので、こちらを先に見ます。

 

使用権者の、商標及び商品・役務の同一、類似範囲での使用について、商品の品質や役務の質、又は他人の業務にかかる商品・役務との混同があったときは、何人も当該商標登録を取消すことについて審判が請求できます(53条)。

 

  • 商標法が使用許諾制度を認めた結果、使用権者の誤認混同行為について、商標権者に監督義務を負わせ、使用許諾制度に伴う弊害を防止したもの(逐条解説など)
  • 需要者を保護するためのもの
  • 故意だけでなく、過失にも適用
  • 何人も請求できる公衆審判規定
  • 使用許諾契約は、明示的又は黙示的に締結されたと推認される場合も含む
  • 商標権者の商品・役務よりも劣悪な商品・役務に商標を付する「登録商標の使用権の範囲の不正使用も」も規定される(逐条解説等)
  • 判例としては、「EVEPAIN、イブペイン」など
  • 現実の誤認混同ではなく、現実の混同の発生ではなく、客観的に混同の危険性が存在すれば足りる

コメント

EVEPAIN商標が、EVE、イブと出所混同のおそれがあるとして、取り消され事件がありますが、本当に、この条文の対象なのかなと思いました。本来なら無効審判請求でも良いところを、53条を適用した感じがします。数点、判例が上っていますが、どれも品質誤認ではなく、出所混同の方です。

 

しかし、使用許諾制度の本質から問題を考えるなら、出所混同よりも、品質誤認です。アメリカでは、使用許諾はrelated companyにだけ認めらます。このrelated companyというのは、資本の関係をいうのではなく、品質管理(Quality control)ができていることをいいます。品質管理が不十分な場合は、商標登録が取り消されるので、商標権者も品質管理の基準を設け、積極的に品質管理に関与します。ビジネスの現場や、グローバルな商標ライセンスでは当たりまえのことが、日本の使用許諾では当たり前ではありません。これはおかしいなと思います。

 

一応、条文や逐条解説では、品質誤認も手当していますが、この品質誤認についての判例はないようです。審決例ならあるのかもしれませんが、皆の関心は出所混同だけであり、品質誤認に関心がありません。日本の実務家が、出所混同を商標法の中心に置きすぎているので、おかしな状態になっているなと思います。

もっと品質誤認が生じているとして、商標登録の取消を請求してはどうかと思います。

 

親会社が商標権を有して、子会社に商標ライセンスするケースは、ビジネスでは一般的です。この場合、グループ会社なので、統一的な品質基準があれば良いのですが、もし、子会社に丸投げならどうなるのかなと思います。親会社が商標権者の義務である品質管理を放棄していることになるように思います。

 

親会社と子会社で同じ商品を扱っていないときは、品質基準が一つなので、品質誤認が生じませんが、親子で同じ商品を扱っているときで、品質基準が二つあるときは、親会社がしっかりと品質管理していないと、この条文違反になるように思います。

 

グループ経営、商標使用許諾は、今の企業ではなくてはならないものであり、その品質管理と商標ラインセンスの関係は非常に重要なのですが、アメリカのように、品質管理と商標使用許諾の関係性についての分析・経験・実務運用が少ないだけに、潜在的には問題があると思っています。

別の言い方をするなら、商標使用許諾に品質のファクターを入れるのは、企業の商標管理としては、必須の内容であるということになります。

 

52条の2も、問題がありそうです。

新・商標法概説(その61)

不正使用による商標登録取消審判

不正使用による商標登録の取消審判は、商標権者の不正使用(51条)と、使用権者の不正使用(53条)の2種類がある。

 

  • 商標権者の不正使用取消審判は、類似範囲のみ。一方、使用権者の不正使用取消審判は、同一及び類似範囲まで。
  • 何人も請求できる公衆審判規定である。
  • 使用権者の不正使用は使用許諾制度を認めた結果、商標権者に使用権者の監督義務を負わせたものである(逐条解説)。制裁の対象は、使用権ではなく、商標権としている。
  • 商標権者の不正使用取消審判は、「故意」が条件となる。ただし、この点は立法論的には反対がある(石井照久博士)。
  • 故意の要件は、最高裁判例には他人の商標を認識し、商品混同の認識まで必要というものがあるが、通説は他人の商標の認識でよいとし、審判においては、周知著名のみによって混同認識や故意認定をする例すら多い。
  • 混同については、別の種類の商品との混同、他人の商品との混同(その場合、他人の商品が現存しなくても良く、広義の混同を含む)、混同は混同の危険(混同のおそれ)でよい。
  • 制裁規定であり、効果は権利の全部取消となるので、指定商品又は指定役務の全部について商標登録の取消請求をすべきである。

コメント

実務では、不使用取消審判や無効審判は良く使ういますが、この51条や53条はあまり使わないのかと思っていました。しかし、色々と判例もあるようです。

 

まずは、51条ですが、

本書に、何回か出てきたので、「アフタヌーン事件」を見てみましたが、「被服など」について、「アフタヌーンティー」及び「AFTERNOONTEA」を二段併記した商標権でしたが、有名なサザビーの「Afternoon Tea」に書体を似せて使用したことでサザビーリーグ側が勝訴した判例です。

権利は、今はサザビーリーグのものになっているので、どこかで和解、譲渡が成立しているようです。

 

商標はズバリではないですが、不使用取消審判では同一性の範囲と見られるのではないかと思います。しかし、需要者に誤認混同が生じるという意味では、誤認混同は生じるといえます。

案外、不正使用の防止のために、51条も重要な条文なんだなと思いました。

 

故意が条件になっているのですが、緩やかに解されているというのは本書にもあります。不正使用により需要者の利益が害される場合の制裁ということですが、上記のような例もあるんだなと思いました。

 

さて、この項目ですが、古い判例の紹介のあたりで、末川博、石井照久、江川英文など、いつもの知財の大御所とは違う、民法、商標、国際司法の大先生の名前が出てきてました。

この条文、この時代からあったようですが、法律学者の興味をそそる、法的な論点が詰まっているようです。

 

 

 

 

 

新・商標法概説(その60)

不使用取消審判

不使用登録商標という形式的、空権的存在をいたずらに許しておくことは、業界の表示使用の自由を圧迫し、かつ、商標選択の範囲を不当に狭めるもので、商標法の理念から見て望ましいものではない。

 

そのため、①継続して3年上日本国内において、②商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが、③各指定商品又は指定役務についての、④登録商標の使用をしていない場合で、⑤正当理由がない場合は、不使用により取消すことができるとした(50条1項)。

 

論点としては、

  • 請求人適格・・・「何人も」
  • 標章の同一性・・・審判便覧の例
  • 立証責任の転換
  • 駆け込み使用の防止

などです。

 

そして、ポーラ事件、ディール・カーネギー事件、DEEPSEA事件などの判例が紹介されています。

 

コメント

不使用取消審判は、更新時の使用チェックが無くなった日本の商標法で、唯一、使用を問題にしているものです。

欧州では異議申立時や権利行使に「使用」が必要になりますし、中国でも損害賠償請求時に「使用」が必要と明記されています。米国では使用がないと権利化も更新もできず(本国登録ベースの初回登録を除く)、不使用は権利の放棄となるのが原則です。

 

米国ですが、以前は、使用商品は指定商品の区分(類)で一つぐらいでも更新できたのですが、最近の運用では商品単位で使用チェック(オーディット)が始まっています。抜き打ちと言ってましたが、あまりに多いなと思います。どうやら、不使用商標の排除は本気のようです。

 

メキシコなどでも使用宣誓がはじまりました。一方、カナダでは使用宣誓がなくなりました。いろんな動きがあるというところです。

 

日本は、不使用取消一本とはいえ、現実に損害賠償請求は不使用商標では実損がないのでできないことが多いですし、実施料相当額の請求も損害がないのにできるのかという議論があります(この条文は特許用だと思います)。

差止は、まだできるようですが、不使用商標で、民事的な差止請求までする人がいるのか?という、そもそもの話があります。ブランドものの著名商標でない限り、不使用商標で、警察が動くのか?という話もあります。

 

さて、小野先生の本ではよく分からないのですが、工藤莞司先生の本などにある、商標的使用の要否などが論点だろうと思います。

 

工藤先生は、商標的使用までは問わない、形式的に使用していればよいという立場で、そのような判例が多いとありますが、ここは反対論もあります。技術名称など、商標的使用なのかどうかは疑問なものがあります。  

nishiny.hatenablog.com

 

表示使用の自由に批判的と思われる、髙部判事が高松高裁に異動になったので、変わるような気もします。

 

ただ、権利行使のあたりについて、不使用商標では損害賠償や差止請求ができないと、法律に明記することほ、重要なことのように思います。