商標の定義、同意書、異議申立、先使用権、著名商標
特許ニュースの2017年9月26日号に、RIN IP Partnerの弁理士の和田 阿佐子さんが、台湾の商標制度の概要を書かれていました。
外国商標になれるため、特許ニュースの海外商標制度シリーズで、海外の商標制度が紹介されているときは、読んでおこうと思っています。
台湾の紹介ですが非常に分かりやすく書かれていました。
筆者の筆力があるのだと思いますが、日本法に近いので頭の中で比較がしやすい、自分が台湾商標法にある程度の知識があるから分かりやすい、ということもあると思います。
台湾は、人口が2350万人で、日本の5分の1です。出願件数は、アジアでは、中国、インド、韓国、日本に次ぐ第5位で、2016年で79,000件程度です。人口比で、5倍すると395,000件です。14万件の日本と比較すると、出願に積極的な国ですね。(台湾は、多区分制度のようです)
登録主義、先願主義、類似群コード採用など基本的に、日本によく似ているのが台湾商標制度です。
面白いと思った、特徴的な制度は、以下です。
1.商標の定義
識別力を商標の定義に入れています(18条)。識別力のないものは、商標ではないとして拒絶されます。また、2012年からは、匂いと感触の商標を認めているようです。
2.同意書
登録主義、先願主義ですが、すでに同意書制度が導入されています(30条10号但書)。審査官を拘束はしませんが、ダブルアイデンティティ(商品同一、商標同一)でない限り、同意書が効果があるようです。
3.異議申立
付与後異議です(48条)が、異議の成功率が、約20~40%と高い水準です。これなら、皆、公報を見て、異議をしようと思います。
4.先使用権
先使用権の要件が、①他人の商標の登録出願日前に、②善意で、③同一又は類似の商標を同一又は類似の商品又は役務に使用する場合に認められます(36条1項3号)。
日本のように周知性が要件になっていません。
登録主義でも、使用主義的要素が、入っています。バランス感覚のある立法だと思います。
5.著名商標の保護
防護標章登録制度は、2003年に廃止されたようですが、著名商標と混同を生じさせる商標や著名商標の識別性を希釈化させる商標は登録が拒絶されます(30条1項11号)。また、そのような商標の使用は商標権侵害とみなされます(70条)。
コメント
同じ、登録主義、先願主義でありながら、日本の相当先を行った先進的な法律となっています(実際の運用面は課題があるのかもしれませんが)。上記にあげた1~5は、日本法の欠点ですが、すべて対応できているのは、素晴らしいですし、なぜ日本では出来ないのかと思います。
特許庁の現場の審査官や、国内事業中心の企業が嫌がるのは、既存の制度がやりやすく、変化を嫌うということで、なんとなく分かりますが、根本的な原因は、他にあるように思います。
法制度改正に係る人(特許庁の職員、学者、弁護士、弁理士、その他)自体に、企業で実務経験が少なく、グローバルな商標制度の理解が欠けいるためではないかと思います。どうでしょうか。特に、経産省や特許庁の職員には、民間経験を積むことを条件とした方がよさそうです。
以前の会社で商標の責任者だったとき、事業部門の知財に研修生が来ており、どこかの事業部の人と思って、普通に接していたのですが、研修修了時に、実は裁判官で研修で来ているのですと言われて驚いたことがあります。このレベルまで研修が進んでいるとすると、すでに研修で片がつく問題ではありません。
民間と公的セクターの人材の流動化まで進める必要があるのではないかと思います。