「BtoB事業のための成分ブランディング」
慶応義塾大学マーケティングスクール教授の余田拓郎先生の本です。タイトルからして、技術ブランディングの本です。
また、発行年月日は、2年ほど前であり、比較的最近の本です。 ただし、「BtoB事業のための」という前提があります。
成分ブランドとは、最終製品を構成する一部の機能、部品、要素技術、サービスなどをブランドしたものを指すとあります。
例としては、プラズマクラスター(技術)、ハイドロテクト(技術)、Bluetooth(技術)、インテルCore(部品)、LG21(食品)、テフロン(素材)、ウールマーク(素材)などがあがっています。
成分ブランドの目標は、当該成分を含まない競合製品に対して、認知や選考をあげていくところにあります。
そして、多くの先行研究は、消費財の消費者への購買行動への影響を見てるとします。
本書の独自性は、成分ブランドの「製品開発における効果」と、顧客企業の「購買行動への影響に基づくコミュニケーション効果」を分析している点としています。このあたりが、BtoB事業のための、という点なのだと思います。
本書は、経営学者の本ですので、先行文献を数多く紹介し、アンケート調査を統計的に分析したり、少し専門的です。
次の結論が得られたようです。
製品開発プロセスでは、成分ブランドの採用により、
- 開発組織における異部門間のコミュニケーションが促進される
- 組織内への市場志向の浸透
- 組織メンバー間の価値観の共有が図れる
- 多様な部門からの参加促進
技術部門と営業部門は、ややもするとコミュニケーション不足に陥りますが、成分ブランディングをすることで、関係性が良化します。
この成分ブランドの認知は、社内よりも社外への認知が重要という指摘がありました。
顧客企業の購買行動では、
- 成分ブランドを広告することで、購買意思決定プロセスを短縮化できる
- 広告で強調する点が明確になる
- BtoBでは、営業担当者が依然として重要であるものの、広告等の手法では成分ブランドが効果を発揮している
- 特に、担当者の専門性が低い場合に、成分ブランドによって製品情報が伝えられる
という発見があるようです。
コメント
著者の関心は、上述のような学術的なところにあります。ハウツーものではないので、難しいところもありますが、随所に「そうだな」と思うところもあるので、詳しくは、本書を見ていただくしかありません。
消費財の消費者以外にも、成分ブランドは効果があるという理論です。そうだろうと思います。
さて、成分ブランドといっても、明治のLG21のように「外販をしないもの」と、デュポンのテフロンのように「外販がメインのもの」があり、ここは、成分ブランドを市場に出す際には、大きく違うのではないかと思っていました。
外販をしないものは、所詮、自社製品の機能名でしかなく、外販をしてこそ、成分ブランドとなるのではないかという感覚です。
ブランド論からしても、明治のLG21の場合は、「明治」というコーポレートブランドがあり、その傘下にあるサブブランドの位置づけですが、「テフロン」の場合は、デュポンから独立して、「テフロン」が存在しますので、「テフロン」自体が一つの独立したブランドであると理解していました。
●他社に成分ブランドを使ってもらおうと思うと、
1)テフロンや繊維メーカーのようにタグを作る
2)インテルのようなライセンスプログラム(表示するとキャッシュバックがある)
3)プラズマクラスターであれば、外販契約の中に商標条項を入れるとか、ロゴ使用マニュアルを作成するとか、ロゴ使用の適切性を監査する
このような、ライセンスプログラムや、表示プログラムが必要になりますし、法的な手当てをしっかりやらないと他社から怒られるなどとなります。(自社なら謝るだけですが、他社の場合は損害賠償もありえます=契約でそのようなことが無いように手当はしますが)
また、他社に成分ブランドを使用してもらうことで、その成分ブランドを目にすることが多くなり、ブランド化が一層促進されるのではないかと思っていました。
しかし、余田先生のように、製品開発における効果や、購買行動におけるコミュニケーション効果というもので見ると、自社向けも、他社向けも大差はないのかもしれません。
すなわち、実務的には、自社使用のみと他社使用では、やるべきことに大差がありますが、成分ブランドとしての本質は変わらないのかもしれません。
ちょっと実務に走りすぎていました。