Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

日本商標法の未来のための方策検討(その10)

商標・商品等表示の混同が生じない場合の特別な保護(その2)

 

昨日に続き、茶園教授の「商標・商品等表示の混同が生じない場合の特別な保護」の続きです。

出所混同を問題にせずに、商標や商品等表示が保護される条項として、不正競争防止法2条1項2号と、商標法4条1項19号が挙げられています。

 

不正競争防止法2条1項2号

  • 保護対象は、著名な商品等表示
  • 保護が、広義の混同がない無関係な分野まで及ぶ
  • そのために、相当の注意を払うことによりその表示の使用を避けることができる程度にその表示が知られていることが要件となっている
  • 立法趣旨は、ブランドイメージ、独自の財産価値へのただ乗り(フリーライド)と毀損(ダイリューション
  • 条文上、「自己」の商品等表示として、が一つの課題
  • また、文言に、不鮮明化、汚染、フリーライド等の言葉がない
  • 条文上の「類似」は、混同ではなく、稀釈化等を防止するものであるため、著名表示を容易に想起するほどかどうかで判断する(主流学説)
  • 論点としては、著名性がなくても、不鮮明化、汚染、フリーライドがある場合があり、信用や名声が害される場合があるのではという点
  • また、著名であれば保護されるので、保護が過剰になるおそれ
  • そのため、立法論としては、不鮮明化、汚染、フリーライドを追加すべき

商標法4条1項19号

  • 日本国内又は外国にける需要者の間に広く認識されている商標、同一類似の商標を、「不正の目的」で使用するものに適用
  • 「不正な目的」とは、外国周知商標で、未登録を奇貨として、高額買い取り、三州素子、代理店契約強制のため先取り的に出願
  • また、著名商標の出所表示機能を稀釈化、名声を毀損
  • さらに、周知商標のについて信義則違反の不正な目的
  • 判例は、指定商品・役務が同一・類似のものばかり
  • 論点としては、「不正な目的」とは極めて抽象的であり、具体性を欠く点
  • 登録を受けることができない商標を具体的に規定すべき

そして、まとめとして、米国法、欧州法と比べ、予測可能性が低いとし、具体的な規制対象を明記すべきとし、フリーライド、不鮮明化、汚染といった文言があれば手がかりとなるとあります。

 

コメント

確かに、不正競争防止法2条1項2号は、商品等表示(当然、商標も含む)が「著名」であれば保護され、商標法4条1項19号は周知商標が「不正な目的」があれば保護され、一般条項的なところがあります。

 

裁判官や弁護士であれば、係争事件で、保護されるための根拠条文があれば良いのでしょうが、弁理士や企業の商標担当者としては、著名や不正な目的は、通常の商品・役務の同一・類似や、商標の同一・類似に比べると、判断が難しいものであり、商標の事前調査において難しい面があるのかもしれません。

 

商標の発案者は、もしかすると、著名であることを知っていたり、不正な目的があったりするのかもしれませんが、知財部や特許事務所に、そのようなことを言う人はいません。

 

しかし、発案者が著名であることを知っていたり、不正な目的がある場合は、当該企業の事業部門の責任はありますので、不正競争行為として訴えらたり、商標が登録にならなかったりしても、文句は言えないのかなという気はします。

 

一般条項的なものですので、通常の4条1項11号や10号や15号で対応できないときの保険のようなものと考えるとあっても良いのですが、適用が無制限に広がるのもどうかと思いますので、茶園先生のいうように、「フリーライド、不鮮明化、汚染」を文言に追加するか、裁判所でこれらのような状況がない場合は、保護をしないということになります。

 

悪意の出願のところで、上野教授が、商標法4条1項19号について、政府の法律の検討の最後で「周知商標」という要件が追加された記載されていましたが、単に「不正の目的」だけでは保護が広くなり過ぎるというのを心配したのだと思います。「フリーライド、不鮮明化、汚染」を入れる方法もあったのかもしれません。

 

フリーライド、不鮮明化、汚染ですが、フリーライドが基本的なものだろうと思います。米国の特別な保護が、フリーライドに言及がないのは、なぜなだろうと思いました。

米国法は混同のおそれが具体的なので、フリーライドをカバーしているのではないかと思います。稀釈化、汚染は良いのですが、フリーライドは通常の商標法でカバーできないものでしょうか。