Nishinyの商標・ブランド日記

商標・ブランドの情報です。弁理士の西野吉徳のブログです。

アサヒグループHD

オーストラリアのビール事業買収

2020年6月10日の日経で紹介されていた、NIKKEI ASIAN REVIEWのアサヒグループホールディングスのオーストラリア事業買収についての記事を読みました。

Asahi's $10bn Australian beer deal faces post-pandemic hangover - Nikkei Asian Review

英語版には、更に、

  • プレミアムビール市場は、パンデミック前は年7%の成長
  • アサヒは、2016年、2017年と、AB InBevから欧州事業を1兆2000円で買収
  • 欧州は、今年は10%減少を予測。回復は2023年に
  • プレミアムビール市場はクラフトビールとの戦いに

とあります。

 

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ブランドの話題で、サントリーのビームの暖簾代(1兆6500億円)が高すぎるのかどうかという議論を聞きますが、アサヒの買収は欧州、豪州と合わせると2.4兆円であり、ビームを大きく超えているようです。

知りませんでした。

 

アサヒグループホールディングスのWebサイトを見ると、欧州事業の比率が高いこと分かります。

 

欧州のブランドを見ていると、現地で人気のビールなんだろうと思いますが、知らないビールが沢山あります。

Brands | Asahi Breweries Europe Group

豪州でもブランドも多くのブランドがあるようです。

Our Brands

 

完全な多ブランド、マルチブランド政策です。これを実現するには、アサヒグループホールディングスのブランドアイデンティンやグループアイディングなどを整理しなおさないと達成できません。

 

nishiny.hatenablog.com

 

また、商標管理としても、これだけの沢山のブランドを管理しようとすると、どうやって管理するのかなと思います。名義一つをとっても、本社に統合するのか、現地会社のまま残すのか問題です。

これらはサブブランドやネーミングではありませんので、全てブランドです。

 

将来の当該ブランドの売却まども視野に入れると、現地会社に残すことが一番簡単な方法ですが、他国への展開しようとすると、現地会社にその気がないと他国展開はできません。

 

JTのブランド管理と、アサヒグループホールディングのブランド管理は、参考になりそうです。

 

民事判決

ネット提供

2020年6月8日の日経に、民事判決のネット提供が動き出したという話があります。

民事判決 ネット上で提供 官民で課題検討、23年度にも 企業など活用しやすく :日本経済新聞

  • 裁判所は社会的関心が高いと判断したものをウェブに掲載
  • 一部は、法律系出版社が当事者から入手して独自に収集し、出版、DB化
  • 地裁判決16万6665件で、裁判所ウェブ掲載は44件(0.03%)、ウエストロー・ジャパンは5033件(3.02%)
  • 高裁判決2万1814件で、裁判所ウェブ掲載は365件(1.67%)、ウエストローは962件(4.41%)
  • 最高裁5112件で、裁判所ウェブ掲載は53件(1.04%)、ウエストローは179件(3.5%)
  • 民事訴訟法上は誰でも閲覧可能で、判決の言い渡しは公開の法廷
  • しかし、閲覧には事件番号が必要で、コピー不可
  • 判決の公開には、人名、法人名、住所などの匿名化が必要
  • これを自動的に行い、公開を目指す

というような内容です。

 

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公開される判例はすべてではないというのは知っていましたが、こんなに少ないとは知りませんでした。

特に地裁の判例は裁判所ウェブには、ほとんど掲載されないんですね。これは驚きました。

 

特許など、出願公開があるので、何でも公開されます。J-PlatPatを見ていると、出願人 の住所にマスクがされているようですが、その程度です。

明細書の内容自体は、全文が公開されています。

 

裁判所が、参考になりそうな裁判例を選択して、公開していることになりますが、意図的なものはないとしても、これで良いのかなという気がします。

いままで、この程度の公開情報で、何とか回ってきたのですから、これからも何とか回るのかもしれませんが、これだけIT化が進んだ時代にちょっとなぁという気はします。

 

匿名化が必要なようですが、これはプライバシーへの配慮でしょうか。

今、裁判所ウェブに掲載されているものは、内容理解ができる程度には当事者の名前なども出ています。すべて、XYZとかになると、却って内容理解ができないように思います。

 

裁判所ウェブに掲載されている判決を見ていると、当事者名や代理人名は全部出ており、商標なども、出ています。

利益率やお金関係でマスキングし、出ていないものが少しあるかなという感じです。

 

今、人間がやっているものを止めるのではなく、これはこれで継続してもらい、それ以外の裁判所としては特に先例的意味は少ないというものを、自動的にXYZなどとしてすべて公開するなどとしてもらえると、良いように思いました。

 

 

司法のオンライン化

海外先行

2020年5月31日の日経に、海外に比べ、司法のオンライン化は進んでいないという記事がありました。

司法のオンライン化なお遠く 海外先行、日本も急務に :日本経済新聞

  • 新型コロナウイルスの影響で止まった司法手続き
  • オンライン化の動きが鈍い
  • 民事訴訟の争点整理では「チームズ」の活用が始まった
  • しかし、訴えの定期、口頭弁論・証人尋問、判決は、2023年度~2025度を目標
  • 法改正が必要
  • 民事訴訟は公開法廷での審理が原則
  • 海外では、オンラインの申立ては米国では1990年代から。シンガポールは2000年に全面導入。テキサスでは5月に「ズーム」で陪審員を選出。米連邦最高裁も電話での審理を開いた

とあります。

 

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次のサイトにシンガポールの取組みがありました。

民事裁判にもIT化の波到来か? 海外事例にみる裁判手続きのIT化 | データのじかん

シンガポールでは、訴えの提起から、訴訟記録へのアクセス、日程の調整、審理と、相当にIT化が進んでいるようです。2018年の記事ですので、昔からちゃんと取り組んできているということです。他に韓国や中国(杭州)の話も出ていました。

 

最近の経験ですが、中国では、北京知財裁判所でも、口頭審理にWebを活用しています。

書面審理ではこちらの主張がちゃんと聞いてもらえているのか、一抹の不安がありますので、Webとは言え、双方の顔が見える状態で、こちらの主張ができることは、ありがたいような気がします。

 

裁判の公開が必要ということは理解していているのですが、Webでは通常は公開はできませんし、YouTubeのように全世界の人に見てもらう必要もありません。

裁判所に、Web閲覧コーナーでも設け、そこに映像を流すことで、裁判の公開とするということで良さそうな気がします。

 

平時であれば、法改正をして対応することも、緊急事態なら法改正を待たずにできることもあるように思いますが、簡単ではないということなんでしょうね。

 

裁判関係でもう一つ、2020年6月3日の朝日新聞で見たのですが、弁護人がマスクを着用せずに、裁判が2時間中断したというものがあります。

3ヶ月ぶりに東京地裁での裁判員裁判が開かれたときの話のようです。刑事ですね。

アクリル板等はあったようですが、弁護人曰く、証人や被告に尋問するときに、質問者の表情が重要になる。マスクをしていると適正な手続きで真実発見は難しいとしています。

結局、裁判員が裁判を継続する意思を示したとして、2時間後に審理再開とあります。

 

確かに、マスクがない方が表情も読み取れます。それなら、いっその事、Web会議であればマスクは不要です。

マスクを着用しての裁判が確かに不安です。

 

この意味でも、Web化、オンライン化を加速する必要があるような気がしました。

 

 

日産のブランドロゴ変更

3月には出ていた情報のようです

 

2020年6月9日の「くるまのニュース」に日産のロゴ変更の話が出ていました。日産としては19年ぶりのロゴ変更ということです。Yahoo! Newsで紹介されていたので知りました。

新ロゴで新生日産のスタート切る! ゴーン時代のハンバーガーマーク19年間で終焉へ | くるまのニュース

  • 2020年7月デビューの新型電気自動車「ARIYA(アリア)」以降に発表するモデルのエンブレムを変更
  • 過去の日産車は、エンブレムの統一は無かった
  • カルロス・ゴーン氏は、共通エンブレムを作ってイメージを統一を指示
  • 日産の新しいイメージ戦略を引き受けたチーフデザイナーの中村史郎氏率いるチームによって作られた

  • 新デザインの特徴は平面的

  • エンブレムの位置は、衝突被害軽減ブレーキ用のレーダーを装着するのに好適。レーダー波の受発信には、出来るだけ平面が好ましい

というような内容です。

 

このロゴ変更の話は、2020年3月20日には、海外の商標出願の情報で出ていたようです。

 

intensive911.com

このブログでは、MINI、BMWVWなどのロゴ変更と並べて背景を説明しています。

 

コメント

日産の公式サイトに説明がないかと思ったのですが、発見できませんでした。ブランドロゴ変更というのは大きな行事であって、公式サイトで説明があったりすることが多いのですが、なぜ無いのでしょうか。

しらない間に、変わっていたというには、大きな変更です。

 

くるまのニュースの記事は、エンブレムの位置は、衝突被害軽減ブレーキ用のレーダーの装着位置であり、平面的なロゴの方が有利という説明ですが、

後半のブログにあるように、デジタルの時代であり、Webとの親和性の高さで、平面的になっているという説明は、BMWVWでもあったように思いますので、そちらの理由が大きいのかなと思います。

 

nishiny.hatenablog.com

 

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今回、本当に変更するなら19年ぶりだそうです。

海外の一流企業は、10年に一度ぐらいでしょうか、ブランドロゴを少しづつ変更します。

一回の変更はそれほど、大胆なものではないこともあります。

街の看板などに、2つのロゴが併存していても、それほどの違和感がない程度の変更です。

それを2回、3回繰り返すと、相当違ったものになります。

日本でこれをやったのはブリヂストンです。

 

ブランドが社会の動きにキャッチアップしていくには、ロゴ変更が不可欠です。

また、商標管理から見ると、ロゴ変更のときに、商標の指定商品・役務などを現代化できます。

 

ロゴ変更を現場の予算だけで賄おうとすると、現場が反発します。余程のカリスマ経営者がいる会社は別として、本社が特別予算を組んで対応すべき事項なんだと思います。

 

日本企業の中で特別な存在である、SONYブランドのロゴが固定してしまっており、この弊害は大きいなと思っているのですが、今回の機構改革でもエレキ分野のロゴとしてはそのまま継続するようです。

グループロゴだけでも、新しくしないのかなと思ってみています。

 

nishiny.hatenablog.com

日産の説明を見たいなと思います。

  

種苗法改正

今国会は見送り?

2020年5月29日の朝日新聞のニュースQ3の欄で、種苗法の改正が議論になっているという記事がありました。

俳優の柴咲コウさんがツイッターで反対意見を発信しているとあります。

シャインマスカットなど、果物の国外流出を防止するための改正だそうです。改正のポイントは、

  • 開発者が新品種登録する際に、輸出国や栽培地域を指定できるようにする
  • 農家が収穫物から種や苗を採る「自家増殖」を見直し、従来自由だったものを開発者の許諾を必要とする(許諾料が必要)
  • 一般品種(巨峰、デラウェア)では不要で、登録品種(シャインマスカット、ナガノパープル)のみ
  • 反対意見には、大資本の多国籍企業に有利になるというものと、日本農業の弱体化、食の崩壊につながるというもの

という内容です。

 

2020年5月21日の日本農業新聞の記事では、新型コロナ対策が最優先で、今回の審議は見送られて次期国会での審議となるとあります。

日本農業新聞は、法改正の前に、開発者が海外で品種登録することを優先すべきとあります。また、「種の権利」は、家族農業を支え、食料主権の根幹をなすものとしており、基本的には反対の姿勢のようです。

 

コメント

おそらく反対があるのは、日本農業新聞にある「種の権利」のあたりの論点だろうと思います。

海外でも品種登録はできるが、それが出来ていない現状というものも見えます。種苗会社ならともかく、試験場などで出来たものは予算の都合で、そこまでできないということなんでしょうか。

 

種苗法は名前は良く聞きますが、内容は理解できていません。

手元の知的財産権法文集を見ると、種苗法が載っていました。弁理士も知っておかないといけない法律なんですね。

 

簡単に説明しているものはないかと調べたのですが、Wikipediaもあまり詳しくありませんでした。そのところ、農林水産省のパンフレットがありした。http://www.hinshu2.maff.go.jp/pvr/pamphlet/seido.pdf

とりあえずは、これと条文があれば、十分です。

保護期間が、25年とか30年とかあり、木のもの(果樹)などは30年とあります。

 

花木や、オクラ、きゅうり、とまと、キャベツなどの野菜など、既に自家増殖が禁止されているものも、沢山あるようです。

 

さて、種苗法の条文ですが、特許によく似ています。

とっつきやすい感じです。

 

シャインマスカットなどの登録品種の名称は、使用する義務があるようですし、違う品種に名称を使ってはいけないとあります(22条:名称を使用する義務等)。

また、虚偽表示の禁止(56条)や虚偽表示の罰(69条)もあります。面白いところでは、虚偽の表示した指定種苗の販売等の罪というものが別にあります(71条)。

 

朝日新聞によると、巨峰やデラウェアなどは、一般品種ということですが、品種の名称は、過去に登録品種であったものも、名称使用義務等はあるようです(22条)ので、巨峰はずっと巨峰のままですね。

虚偽表示や虚偽表示の罪はどうなるのかについては、良く分かりせんでした。

 

商標登録をしている品種名も多いと思います。

 

 

論文再読(その2)

「小売等役務制度に関する事例紹介と今後の課題について(制度導入から十余年を経て)」(続き)

 

昨日に続き、上記の論文を読んでいます。

 

 5.「BLUE NOTE」事件(知財高判平成23年9月14日):

判例が長めに引用されています。

特定小売等役務と総合小売等役務が別のものであり、類似しないとしたもの判例のようです。

 

6.「MERX」事件(知財高判平成24年1月30日):

医薬品・化学製品の小売等役務と商品としての医薬品・化学製品とは、重複(類似)があることを認め、また、総合小売等役務と個別小売等役務とを分けて需要者の認定をしているようです。

※ 5.も6.も審査基準の考え方に沿ったものです。

 

7.「ベビーモンシュシュ」事件(大阪高判平成25年3月7日):

商品「洋菓子」の商標と、「洋菓子の小売り」役務の商標に、重複(類似)があることをみとめたものです。

※侵害訴訟で、商標法第2条第6項が使われている事例です。

 

8.「ジョイファーム」事件(東京地判平成30年2月14日):

原告が「ジョイファーム」を第35類の「加工食料品の小売又は卸売の業務について行われる顧客に対する便益の提供」で登録し、被告が訴外のケンコーコムのサイトで、「Joyfarm-Odawara」と明記したジャムを販売していたことについて、一般論としては商品と小売等役務間の出所混同のおそれはあるものの、本件については、各種事情から侵害しないとしたもののようです。

※被告の商号が「有限会社ジョイファーム小田原」であり、それを英語にして、有限会社を除いて「Joyfarm-Odawara」とした(商号の使用)という面もあるようです。

 

論考は、クロスサーチの是非、既存の商品商標の不使用該当性、そして、商品の販売行為が論点としています。

 

特に、商品の販売行為についてですが、実務家の中には、小売店における販売行為を小売等役務の概念に含めて考えることができるという意見もあるとしますが、判決には、商品の販売行為を指して小売等役務商標として使用されているとするものはないそうです。

すなわち、裁判所も、商品の販売は、特許庁のいうように商品商標の使用で読むことになっているようです。

 

コメント

例えば、家電、化粧品などの小売り店があるとします。

大きく2つに分かれて、

1)もともとメーカーが出した製品(パッケージ)をそのまま販売する行為と、

2)その小売・卸売りの店舗の看板、陳列、プライスカード、チラシ(広告)、Webサイトに、当該商標を表示する行為です。

 

1)も2)も、双方、権利者はメーカーとなるのだと思いますが、

1)は黙示の許諾で、商品商標の使用となりそうです。

2)は商品商標の範疇なのか、小売等役務商標の範疇なのか、条文だけを見ても判然とはしません。「elle et elles」事件の書きっぷりなどからは、本来は小売等役務商標であることを想定しているようにも読めます。

 

2)の行為主体は、メーカーではなく、メーカーから商標の使用を許可(黙示あるいは明示の許諾=ライセンス)された小売店です。

明示の許諾をするなら、権利番号が必要になることもあり、そのとき商品で読むのか、小売等役務で読むのかは重要です。

 

今回の総合小売等役務が、百貨店やGSMが全ての商品分類で商標権取得はなくて良いとするためのものであるなら、それとの対比で考えて、小売は商品ではなく、小売等役務で完結すると解釈するのが筋が良さそうです。

そうなると、2)の行為を統制しようとするなら、個別小売等役務での商標権取得が必要なように思います。

 

メーカーは、商品商標さえもてば、小売等役務まで禁止権があるので、小売等役務は何もしなくて良いという解釈が現状のように思いますが、それで良いのかなという気はします。

 

メーカーが先に商標を持っているとすると、同じ商標を個別小売等役務で権利取得したとして、その権利は何を保護しているのかよく分かりません。看板も陳列、プライスカード、チラシ(広告)、Webサイトも、商品商標になってしまいます。

個別小売が、流通の新規ブランドを立ち上げたときだけ、意味があるということでしょうか。

 

現行法は、商品と小売等役務クロスサーチを行いましたが、もし、クロスサーチがなければ、メーカーは積極的に個別小売等役務の商標権を取得したはずです。当時、メーカーの権利に基づく既存の秩序に配慮したのかどうか分かりません。

本来は、サービスマークのときの優先登録期間のようなものを設けてきっちりと対応すれば、良かったのかもしれません。

 

さて、アップル社などは、小売(例えば、ヨドバシカメラ)にアップル製品販売コーナーを作るときには、店舗の内装、商品レイアウト、商品知識、従業員の接客など、事細かく契約と研修で詰めます。

日本企業とアップルの差は歴然としています。黙示の許諾のような理解は、ブランドマネジメントではよくありません。

メーカーが、小売にライセンスを与えているから、小売が商標を使えるのだということを明確にするようにしていかないといけないように思います。

 

商品商標と捉えても、小売等役務の商標と捉えても、どちらでも構成は可能ではあるのですが、こうのような契約実務と含めて、考え方をしっかりする事が必要があるように思いました。 

論考再読(その1)

「小売等役務制度に関する事例紹介と今後の課題について(制度導入から十余年を経て)

 

パテント2020年2月号に掲載されていた、山田朋彦弁理士(令和元年商標委員会委員長)の標記タイトルの論考を再読しています。

https://system.jpaa.or.jp/patent/viewPdf/3495

 

以前のブログでは、この論考は判例の紹介の論考なのですが、判例には言及していませんでした。

nishiny.hatenablog.com

 

小売等役務に関する判例として、多くのものが紹介されています。

1.「elle et elles」事件(知財高判平成21年11月26日):

下着の陳列販売、広告には商標を使用しているが、商品自体には商標を表示していないが、商品商標の使用と認めた事件。

※ このタイプの判例は数件あるようです。

小売等役務の導入前の出願分については、商品商標の登録があれば、あえて役務商標の登録がなくても良い(商品商標の使用があるとして、不使用とはしない)というもののようです。

しかし、2陳列は別として、条1項及び2項から、広告はそもそも商品商標の使用といえるようにも思いました。

 

2.「NYLON」事件(知財高判平成29年2月23日):

「被服等の小売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」において、商標「NYLON」が識別性があるかどうかについて、陳列棚に「NYLON」とあると品質表示となるので拒絶することは正当というものです。

※ 山田先生も、この判決には批判的なように読めました。

小売等役務の識別性と商品の識別性は、クロスサーチされる範囲とはいえ、違うように思います。

学生時代に大学の近くに「NYLON」という名称の古着屋があったことを思い出しました。お店の名前と素材は、役務から見ると→陳列→商品となり、商品から見ると商品→陳列→店となり、陳列は真ん中にきますが、役務と商品では、重点の置き方や想起・連想の仕方が違うように思います。

小売でのお店の看板、紙袋などは重要と思いますので、そちらに重点を置くことは必要ではないかと思いました。

 

3.「スーパーみらべる」事件(知財高判平成23年12月26日):

スーバーが「飲食料品の小売又は卸売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」についての商標「スーパーみらべる」と、商品「茶、コーヒー」等についての商品「MIRABELL/ミラベル」の類否について、出願商標「スーパーみらべる」の使用実態まで考慮して、非類似としたものです。

※ ひらがなとカタカナの違いはありますが、標章は類似となっても仕方ないように思いますが、小売と商品が本来、非類似ではないかと考えさせる事例です。

 

4.「エリエール i:na」事件(知財高判平成28年1月28日):

出願商標「エリエール i:na」は商品「ティッシュペーパー」を指定したものですが、「紙類の小売り又は折市売りの業務において行われる顧客に対する便益の提供」という役務についての「e-na」商標を引例として拒絶されました。結論、非類似となっています。

※ 標章の態様が違う(「i:」と「e-」、書体など)のと、こちらは本願商標中に著名商標「エリエール」があるので、それに引っ張られた可能性があります。商品と役務間ということで、紹介されているようですが、これは標章の類似の話ではないかと思います。

 

(以下は、次回、書きます)